なぜ直感の7割は正しいのか──『直感力』

「直感」と聞くと、それを何の根拠も持たない「当てずっぽう」のように思う人が大半かもしれない。またそれを「第六感」のような超越的な能力のように想像する人も多い。しかし直感による選択には明確な理由があるのだと言い切っているのが今回紹介する本です。

著者はかの有名な羽生善治さん。棋士は「読み」「大局観」「直感」の3つを駆使して対局に望んでおり、本書はその中のひとつである直感に焦点をあてている。天才・羽生善治が「直感」をどのように考えているのか、また自身の対局にどのように活かしているのかが非常に興味深い一冊となっている。

直感は何も無いところから生まれるわけではない

冒頭でも言ったように「直感」と聞くと、ややもすると根拠も何もない雑な選択のように思ってしまうかもしれない。しかし羽生さんによれば、決してそういう類のものでは無いのだと言う。どういうことかと言うと、直感による選択は無意識のように感じられても、実際は脳内に蓄積された経験や知識が瞬時に答えを導き出している状態なのだそうだ。

例えば友人の顔を見た時に「あれ?なんか今日は様子が変だな」と思ったけど、具体的にどういう理由でそう感じたのかはわからない。気になるので友人に聞いてみると、実際に調子を崩していたり嫌なことがあったりということは多い。それは当てずっぽうがたまたま的中したわけではなく、微妙な表情や仕草の変化が日頃見てきた友人の様子と異なっていたからである。その微妙な変化を脳が感じ取り「いつもと何か違う!」という信号を送ってくれているわけだ。

つまりは直感は自分としてはその理屈がよくわからないけれど、実は非常に論理的な構造を持っていることがわかる。それは経験と知識に基づいた立派な判断なわけだ。羽生さんは直感を「まず答えが先に降りてきて、後から理論や確認がついてくるもの」と表現している。言い得て妙ですな。

この自然と湧き上がり、一瞬にして回路をつなげてしまうものを直感という。  だから、本当に見えているときは答えが先に見えて理論や確認は後からついてくるものだ。

直感は現代でこそ必要なスキル

ただ直感がどういうものかが理解できても、プロ棋士でもない僕たちにはそれがどういう場面で役に立つのかイマイチわかりづらい。下手をすると何の役にも立たないんじゃなかろうか。しかし本書を読んだ後に思うのは「むしろ直感こそがこれからの時代を生き抜くのに必要ではないか」ということだ。

今の時代はとにかく物事が変化するスピードが早い。愛用しているパソコンは一年もすれば低スペック扱いされるし、話題のベストセラー本もお笑い芸人もしばらくすれば消えさってしまう。昨日の常識が、今日の非常識にもなり得る時代だ。そういった不確実な世界を生きていくには、まさに直感的に物事を判断するスキルは重要になっていくように思う。

何をしたらいいのか、どうなっているのか見えにくい、分からない時代を生きていかねばならない。そのときのひとつの指針となるのが直感だと考えている。

直感は決まった方法にとらわれず、瞬時に最適な判断を導いてくれる。何が起こるのかわからない世界でも通用する能力ではないだろうか。

直感力を磨く方法

直感は先天的な能力のように思ってしまうけれど、本書によればそれは鍛えることのできる能力ということだ。その方法が要所で紹介されている。

最も重要となるのは経験の蓄積だ。直感は言ってみれば経験則であり、膨大なデータの中から法則性を瞬時に導き出すようなものである。そうなると地味で地道ではあるものの、とりあえず場数を踏んでいるということは直感を引き出す上で欠かせない。

直感は、本当に何もないところから湧き出てくるわけではない。考えて考えて、あれこれ模索した経験を前提として蓄積させておかねばならない。また、経験から直感を導き出す訓練を、日常生活の中でも行う必要がある。

そして上記にもあるように、直感を導き出すトレーニングも必要となる。単に豊富な経験があるだけでもやはり駄目で、それを使いこなせるようにもしなければならない。そのトレーニングとして本書では「アウトプット」が推奨されている。アウトプットは単なる出力ではなく、インプットをより深く蓄積させるためのものだと羽生さんは言う。

ブログ、ツイッター、フェイスブックなどのSNSをやることも効果があるだろう。  アウトプットは、単なる出力ではない。記憶するための手段でもない。人は必ず、アウトプットしながら考え、それを自分にフィードバックしながら、インプットされた知識や情報を自分の力として蓄積していくようにできているのではないかと考えている。

これはブログをやっている自分としては非常に共感できる考えだった。こうして読んだ本をブログ記事として感想を書いたりまとめたりすることは一見するとアウトプットのように見えて、実は最上のインプットのように感じている。アウトプットのためにインプットをするというよりは、むしろアウトプットこそが上質なインプットには必要なのかもしれない。

将棋の棋士がなぜ直感力に優れているのかと言うと、やはり年間に1000以上の対局をこなしている膨大な経験と、直感を使わざるを得ない状況に追い込まれることがあるのだろう。インプットとアウトプットが自然と行われているため、優れた直感力が養われているのである。

おわりに

羽生さんの著書は初めて読ませてもらったのだけれど、テレビで見る飄々とした雰囲気とは異なり、非常に論理的で突き詰めた考え方をしていることが印象的だった。やはりどのジャンルの世界でも、そこでトップレベルの活躍をしている人の話は聞いているだけで面白い。無駄な脚色は全く必要ない。

この本を読んだ後に別の著書である『決断力』も購入してみた。目次を覗いてみるとそこには「直感の7割は正しい」ということが書いてある。こちらも興味深い内容が多そうなので、読んでみたいと思います。

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