あなたの信念は毒かもしれない——『迷路の外には何がある?』

チーズはどこへ消えた?』に続いて読んでみた。前回の記事でも書いたように本書はその続編であり、同時に著者スペンサー・ジョンソンの遺作でもある。

前作で唯一チーズを手に入れることができなかった「ヘム」を主人公としてストーリーが展開されていく。変化を拒むあまり次の行動を起こせなかったヘムに個人的には最も感情移入していたので、彼のその後を描いた本書の内容は興味深い。

前作との違いとはなにか

世界的なベストセラーとなった『チーズはどこへ消えた?』はそれだけで完結された物語となっているが、著者はなぜその続編を書くに至ったのだろうか。その経緯が簡単にだが本書の冒頭で述べられている。

『チーズはどこへ消えた?』は、人生と仕事における変化に適応する道を示しました。本書『迷路の外には何がある?』は、あなたがその道に踏み出し、変化に適応し、かつあなたの運命をも変えるためのツールを与えてくれるものです。

前作は寓話のスタイルを取ったがゆえに万人に読みやすい作品となったが、その反面、抽象的な状況をうまく自分に当てはめられないという人も多かったのかもしれない。本書はそんな人に向けて少しだけ具体的な解決策を示したものということだろう。

前作の内容は訪れる変化に対する道筋を示すためのものであり、その具体的な方策は読者に委ねられているところが多かった。今作はそこから少し踏み込んで、具体的な解決策を提案していると言える。ただ忘れていけないのはあくまでも本書で描かれているのは著者のひとつの提案であり、これが変化に直面したときの単一の答えではないということである。

「信念」の大切さと恐ろしさ

前作のキーワードは「変化」だったわけだが、今作では「信念」がそれにあたる。とはいっても「信念」の大切さを訴えかけているだけというわけではなく、どちらかといえばその危険性を注意喚起している。

信念とはいわば自らの芯とも言えるものであり、それに基づいて行動することは確かに重要である。しかしヘムは信念という概念を過信するあまり、逆に身動きがとれなくなってしまっている。ヘムは物語の冒頭で自身が「わかっている事実」として以下の三点をあげている。

①新しいチーズをみつけなければならない。さもなければ死ぬ。
②迷路は危険なところで、暗がりや袋小路があちこちにある。
③すべてはぼくしだいだ。自分で何とかしなければならない。

これらは言い換えればヘムの信念である。前作まではこの信念を胸に掲げることで万事うまくいっていたのだろう。しかし前作にて突如としてチーズが消えてしまった際に、ヘムはこれらの信念に逆に囚われてしまう。つまり信念は毒にも薬にもなるのである。

本書はいうなればヘムが信念を捨て去るまでの旅路だ。ホープという名の女の子と出会い、チーズではなくリンゴを見つけたことをきっかけとしてヘムは自身を縛り付けていた信念から脱却していく。

もし誤った信念に囚われている読者がいるとしたら――誰しも多かれ少なかれそういった信念を持っているだろうが――、ヘムの旅路を追体験することはそこから抜け出すための一助となることだろう。

おわりに

「変化を受け入れる」という点では前作と同じテーマを扱っているといえる。しかし本書はそれを「信念」という具体的な概念を用いることで読者自身に当てはめやすいものになっていると感じた。寓話としての親しみやすさを損なうことなく、かといって漠然とした内容になりすぎないように著者が努めたのだろう。

『チーズはどこへ消えた?』はそれだけでも素晴らしい作品だが、本書と合わせて読むことで自分のなかでより洗練された作品になったように思う。


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