レトリックで「文章」が楽しくなる/『日本語のレトリック―文章表現の技法』

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レトリック における「直喩」「隠喩」といったお馴染みのものから、「くびき法」「黙説法」といった聞き慣れないものまで、30種類の技法を一冊で紹介している本。その数は豊富だが、ひとつあたり4~6ページで簡潔に紹介してあるので読んでいても全くダレない。また巻末には付録として30種のレトリックの早見表が掲載されているので、簡易辞書としての利用もできて便利。

副題にもなっているように、レトリックを知る意義のひとつは文章表現が上手くなることにある。より魅力的で、より適切な表現を可能にしてくれるのはレトリックの特徴だ。また書き手としても、そういった遊び心を文章に加えることができるようになると、書くことに楽しみを見出すことができる。

またレトリックの存在を知っておくと、文章を読むときにも変化が訪れる。それまでは読み流していた文章が、実は様々なレトリックに彩られていることに気がつく。文章を読む時の新たな視点を得ることにも繋がるわけだ。

レトリックは単なる文章装飾ではない

レトリックは「修辞法」なんて訳されるように、文章を装飾する「化粧」のようなイメージを持ちやすい。人によっては「なんでそんな遠回しな表現すんの?調子のんな」なんて思う人もいるかもしれない。

ただ勘違いしてはいけないのは、レトリックを使うのは小粋な言い回しをして悦に入りたいからではなく、それによって「より適切な表現」をするという目的が根本にあるからなのだ。

しかし、魅力的な表現を求めるレトリックは、少し別なところに力点をおいています。つまり、魅力は、美文や装飾に直結するのではなく、「より適切な表現」を求めるからです。

人間の物事の感じ方が無限にあるのに対して、それを表現する言葉は有限だ。そうなると、より的確に自分の感じ方を人に伝えるにはどうしてもレトリックに頼らざるを得なくなる。

例えば本書の直喩の章に、

ヤツはまるでスッポンのように食いついたら離れない。

という言い回しがある。これが単に「ヤツは食いついたら離れない」というだけの文章だったら、この人の執念深さや根性の有り様を表現するには不足するように感じる。そこで彼をスッポンに例えることで、そのしぶとい性格をより適切に表現しようとしているのである。

これは直喩だけではなく、レトリック全てが持つ特徴と言える。レトリックは人間が持つ無限の感情や性質を、そっくりそのまま伝えるための技術なのである。

類似性の発見の喜び

レトリックのおもしろい特徴として、読み手に「類似性の発見の喜び」を与えることがある。どういうことかというと、レトリックにはお笑いで言うところの「あるあるネタ」のような、共感することによる喜びを提供する作用があるのだ。

またスッポンに登場してもらうが、先ほどの「ヤツはまるでスッポンのように~」という言い回しは、言ってしまえば決してわかりやすい表現ではない。なぜならこの例は、読み手がスッポンをよく知っていないと伝わらないという条件があるからだ。人によってはスッポンの「噛みつく力が強い」という特徴を知らないかもしれないし、「スッポン?なにそれ?」といった人もいないとは言えない。

しかしそういった「わかりにくさ」があるからこそ、それを理解できた時に喜びが生まれるのである。文中でレトリックに出くわした読み手は、最初に少し当惑する。「これは何を言おうとしているのだろう」と考える。その後にそれがAをBによって表現しているのだということがわかってくる。その時に、なぞなぞが溶けた時のような快感を得ることができるのだ。

鮮度がよくて、適切な直喩は、類似性の発見の喜びを伝えます。

もちろん上記で言われているように「適切な」レトリックでないと、そういった効果も少ないのだろう。ただこのようにレトリックには平坦な文章に抑揚を付け、読み手にちょっとした楽しさを提供する効果も持っているのだ。

読書の際の新たな視点となる

自分がレトリックの本を何冊か読んで感じたことは、レトリックの表現を知っていると読書がおもしろくなるということだ。

どういうことかというと、本を読むときに、そこで使われているレトリックに注意が働くようになるのである。一般的には読書をするときに意識を向けるのは、そこで展開されている「思想」や「論理」であったり、また「ストーリー」や「世界観」といった部分だろう。しかし多少なりレトリックについて知っておくと、そこに「レトリックの表現」を見る視点が生まれる。より多用な見方で文章に触れることができるようになるのである。

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文中にレトリックが使われていることに気がつくと、著者がどうしてそういった表現を使ったのか考える楽しさがある。また巧みなレトリックの言い回しは、それだけで美しさがあるものだ。そういった点に意識を向けながら読書をするのも、新鮮さがあってよい読み方だと思う。

レトリックの入門書としてどうぞ

レトリック感覚』では7つの主要なレトリックが掘り下げて解説されていたが、それに対してこの『日本語のレトリック』は広く浅く触れている。どちらもおもしろい本だが、手っ取り早くレトリックの表現の味わい深さを知りたいなら本書はおすすめだ。

本書は「岩波ジュニア新書」ということで、おそらくは中高生向けの本という位置づけなのだろう。しかしレトリックについて興味を持った人であれば、大人でも子供でも読んておいて損はないと思います。

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