やはりジブリすごい。『コンテンツの秘密』 でコンテンツの本質を探る。

ニコニコ動画を作ったKADOKAWA会長・川上量生さんの本。

川上さんがジブリに見習いとして出入りする中で考えていた「コンテンツの本質とは?」という疑問についての考えが書かれています。これがコンテンツというものを考える論文としての面白さもあれば、宮﨑駿監督を始めとしたクリエイターたちのエピソードを楽しむための読み物としての面白さもあり、興味深く読むことができました。

「わかりやすい」ものは「気持ちいい」

「わかりやすさ」というものは、表現をする上で重要とされています。文章でも、わかりやすさが最も重要と言われるぐらいです。ではなぜ「わかりやすさ」がそんなに重要なのか、という疑問に対して、川上さんは脳の構造などを取り上げながら答えてくれています。

じゃあ、なぜ分かりやすいのを「いい」あるいは「美しい」と思うのかというと、複雑なものを簡単な法則に還元できるからではないでしょうか

ここで言われる「わかりやすさ」とは単純な意味ではなく、「クリエイターが伝えたいことが、ユーザーにストレートに伝わるか」という意味を含んでいます。

おそらく人間の脳には、対象物の法則性を認識し、複雑なものを簡単な要素に分解できたときにうれしくなる回路が存在していて、それがコンテンツを「いい」と思ったり「美しい」と思ったりする根源なのではないでしょうか。

人間は生まれた時の完全なる「無知」の状態から、言葉や常識に至るすべてを学ぶことによって習得してきました。そんな人間にとって、「わかりやすい」ということはそれだけで「素晴らしい」と思う感覚があるのだと思います。 「知る喜び」と言い換えてもいいかもしれません。人間は知識欲がなければ進化しなかった生き物です。そういう人間にとって「わかりやすい」という感覚から、「嬉しい、楽しい」という感覚が無条件で引き起こされても不思議ではありません。

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わかりやすさを求めるのは「伝わらなければ意味が無いから」という理由によるものと僕は単純に考えていましたが、それだけでなく「わかりやすさは快感を引き起こすから」という視点は、非常に興味深いものがあります。

コンテンツはワンパターンになる運命にある

川上さんの、UGCサイト(User Generated Contents:つまりユーザーが作ったコンテンツ)についての見解が衝撃的です。

UGCサイトというのは世界中のユーザーがコンテンツをつくるので、とにかく数が多くなる。コンテンツは無料だからユーザーが集まる。無料でコンテンツをつくる人も実はインターネットのなかにはたくさんいる。そこで競争も生まれるのでコンテンツのクオリティもどんどん上がっていって、いずれ商業コンテンツもいらなくなる。しかも数が多いので、商業コンテンツでカバーできない多様性のあるコンテンツがたくさん生まれる。そういう夢のような触れ込みで、インターネットにUGCサイトがつぎつぎと誕生したのです。 実は、ドワンゴのニコニコ動画もUGCサイトのひとつです。

ユーザーが自由にコンテンツをつくるUGCサイトは、世間の予想や期待とは逆に、コンテンツの実質的な多様性を減らす作用があるというのがぼくの持論です。  コンテンツとはほうっておくとワンパターンになるのです。だから、ユーザーが自由にコンテンツをつくるUGCサイトはむしろワンパターンになりやすいのです。

ニコニコ動画ではユーザーが投稿する多様なコンテンツが魅力と思われがちですが、そうではなく実際はコンテンツ全体でみるとむしろ多様性を失っているそうなのです。というのは、コンテンツが増えるほど競争は激化していきます。しかしそうなると、ユーザーに受けやすいものを作ろうとするあまりにコンテンツはワンパターンになってしまうらしい。

ユーザーの欲望に忠実であろうとすればするほど、できあがるコンテンツは画一化してしまいます。

当初のUGCサイトの魅力と思われた部分からはかけ離れて行ってしまったわけですね。ただこれはブログを書く人間にとっても注意しなければいけないことのように思います。ブログというものがUGCに該当するのかはわかりません。ただユーザーを意識するあまりにコンテンツがパターン化してつまらなくなるという現象は、ブログでも珍しくないように思います。「俺が書いている記事は他人とは違うんだ!」と思っていても、俯瞰してみると同じようなものになっている可能性は十分にあるのです。

このようなワンパターン化はコンテンツにおいては「必然」と言ってもいいのですが、ではそれを避けるにはどうしたらいいのか。そのあたりも本書では取り上げられているので、次から紹介していきます。

「引っかかり」を作ることで、印象に残す

川上さんは、宮﨑駿監督が『崖の上のポニョ』において「わざと歪んだ線を描く」という話や、作家の中島梓さんが「文中にあえて読みにくい文章を挿入する」というエピソードを紹介した上でこう述べています。

つまり、分かりやすい文章というのは、綺麗なパターンの組み合わせでスーッと読めてしまい印象に残らないから、ところどころ読みにくくして、〝引っかかり〟をつくらなければならないということです。

キャッチコピーの世界でも、あまりに当たり前すぎるフレーズだと頭に残らないので、あえて崩したり中途半端なままにするという手法が使われるそうです。例えば、数字でもキリがいいよりも奇数や素数などの半端なもののほうが、人間にとっては強い印象に残るという話を聞いたことがあります。

これは創作活動をしている人には示唆に富んでいます。多くの人はまず「完璧なもの」を求めていってしまうからです。完璧が悪いというわけではありませんが、ただアニメや漫画やブログなど、印象に残すことが求められる場所では、完璧よりは少しぐらいは不完全なほうが魅力的に写るのは確かではないでしょうか。

コンテンツに携わる人の必読書

スタジオジブリを始めとした、一流のクリエイターたちのコンテンツに対する鋭い視点を知ることができる一冊。思うのは、ある分野でトップにいる人の話というのは飾らなくてもそれだけで面白い。仕事に対しての真摯さや情熱の賜物なのだと思います。

文章も非常に読みやすく、要所でそこまでの章のまとめをしてくれているので優しい。コンテンツの本質を知りたい方はぜひ。


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