「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」は弱さを受け入れるヒントとなる漫画

screenshot_58

良い漫画でした。1巻完結です。
胸が苦しくなるような、しかし同時に爽やかになるような。色々な感情が溢れてきます。

志乃ちゃんは「吃音症だから」自分の名前が言えない

「惡の華」で有名な押見修造氏の漫画です。この漫画も作者の個性がほとばしっています。なんと「吃音症」で悩みを抱えている女の子が主人公なのです。

志乃ちゃんは入学して早々に、自己紹介で自分の名前が言えない。実際はこのシーンはかなりページが割かれていて、志乃の吃音の度合いを垣間見ることができます。

screenshot_50

終いにはクラスメイトに笑われてしまう。
screenshot_59

見ていて何とも心が苦しくなる場面です。志乃の学園生活は、この自己紹介が原因で入学初日にいきなり躓くことになってしまいます。

その後もクラスメイトの男子にからかわれたり、先生からも「名前くらい言えるようになろう?」と無神経な言葉を言われたりと、もう散々。

しかし志乃にもある事がきっかけとなって「加代」という友達ができます。この加代との出会いが、志乃の大きな転機となっていくのです。

screenshot_52

志乃の複雑な心境

志乃にはある才能がありました。それは「歌が上手」ということ。吃音は歌っている時は発症しません。趣味でギターを弾いていた加代によって、そのことに気がついたのです。

screenshot_60

順調に見えた二人の活動ですが、ある時、志乃にとって「ある人物」が大きな障害となります。それはもともと志乃のことをからかっていたクラスメイトの男子・菊池。この菊池は二人が音楽活動をやっていることに感動して、自分も一緒にやりたいと言ってきます。 そして加代と菊池は元々ウマが合う性格同士だったのか、次第に仲良くなってしまうのです。

この辺りの志乃の心境を想像するとかなり複雑。自分をからかっていた人物と一緒に行動するのも苦痛なのに、そいつが唯一の友達であった加代と仲を深めていくのを目の当たりにしているわけです。「菊池なんてどっか行ってほしい」というのが本音だと思いますが、加代が仲良さそうにしているのを見ると、それも言うことができません。

screenshot_53 screenshot_54

結局どうしたらいいかわからなくなった志乃は、自ら加代も遠ざけて、またひとりぼっちになってしまいます。

screenshot_55

素晴らしい「あとがき」を絶対読むべし

ここまで見ると若干ヘビーな内容ですが、物語のラストで志乃は自分のこの病気や、それによって内向的になっていた自分の性格に対して結論を出します。かなり情熱的な場面です。志乃の背中が大きく見えますね。screenshot_56

こうして「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」という漫画は爽やかに物語を終えていくのですが、実はこの話は作者の実話が元になっていることが「あとがき」にて明らかにされます。そしてこのあとがきが色々と考えさせられるのです。

作者自身も吃音症であり、学生時代は志乃のように笑われたりする経験があったようです。

今でも、一番怖いのは自己紹介の時です。「お名前は?」と聞かれると、胸が恐怖に満たされます。

しかし作者は、吃音症も悪いことばかりでは無く、「今の漫画の仕事に活かせることが多い」とも語っています。

ひとつは、相手の気持ちに凄く敏感になるということです。相手が自分をどう思っているか、変だと思われていないか、というのがすごく気になるので、人の表情や仕草から感情を読み取る能力が発達しました。これは、漫画で表情を描くとき、すごく力になっていると思います。

もうひとつは、言いたかったことや、想いが、心のなかに封じ込められていったお陰で、漫画という形にしてそれを爆発させられたことです。
つまり、吃音じゃなかったら、僕は漫画家にはなれなかったかもしれないということです。

漫画家や作家などのクリエイティブな活動をしている人は、コンプレックスをバネにして作品を世に送り出していることが多いです。そしてそういった作品ってかなりエネルギーに溢れているんですよね。抑圧されてきた反動で、単純な積み重ね以上のパワーがあって面白いことが多いように思います。押見さんのような経験を聞くと、落ち込んだりクヨクヨしているような経験も、プラスのエネルギーに変換できることがわかり、勇気づけられるような思いです。

「吃音症」という病気に限らずとも、青春の一ページでこういったコンプレックスに悩まされ、孤独感を味わったことは誰しもあるのではないでしょうか。運動や勉強が苦手だったり、太っているとか身長が小さいとか、いくらでもありそうです。そういった悩みや苦しみに対して、自分なりの結論に到達するための手助けとなってくれる漫画だと思います。

1巻で完結しているので一気に読める部分もおすすめです。病気などがコンプレックスの人はもちろん、ちょっとした悩みを抱えている時にも道標となってくれるような良書ですよ。

SNSでもご購読できます。