架空の都市を蘇らせた男/『古代への情熱―シュリーマン自伝』

トロイア戦争は実際にあった事に違いない。トロイアの都は、今は地中に埋もれているのだ。―少年時代にいだいた夢と信念を実現するために、シュリーマンは、まず財産作りに専念し、ついで驚異的な語学力によって十数ヵ国語を身につける。そして、当時は空想上の産物とされていたホメーロスの事跡を次々と発掘してゆく。考古学史上、最も劇的な成功を遂げた男の波瀾の生涯の記録。

「安くておもしろそうな本はないものか」という不純な理由で探していて出会った本。読み終えた感想としては、そんな理由で読んだのが恥ずかしくなるほどに夢や情熱に溢れている内容でした。

ハインリヒ・シュリーマンは上記のあらすじを読んでもわかるように、架空の都市とされていたトロイアが実際に存在することを証明した人物である。それだけ聞けば「ふーん」ぐらいに思うかもしれないけれど、凄まじいのはそこに至るまでの過程である。詳しくは後述するが、自分の夢に向って邁進するその姿勢は、読む人を勇気づけてくれる。

努力の範疇を超えた努力

もちろんシュリーマンが成し遂げた功績は素晴らしいものがあるが、先ほども言ったようにそれ以上に強烈なのは彼が夢を成し遂げるために積み重ねてきた努力である。

貧困にあえいでいたシュリーマンは、このままではトロイアを見つけるという夢をかなえるのは到底無理だと悟っていた。そこで仕事の地位を向上させるために英語を習得しようとするのだが、その方法が以下の通り。

その方法は簡単なもので、まず次のようなことをするのだ。大きな声でたくさん音読すること、ちょっとした翻訳をすること、毎日一回は授業を受けること、興味のある対象について常に作文を書くこと、そしてそれを先生の指導で訂正すること、前の日に直した文章を暗記して、次回の授業で暗誦すること、である。

方法としては現代でもよく見かけるようなものなので別段めずらしくもないのだが、シュリーマンは仕事の合間はもちろん、寝る時間すら削ってこの方法を繰り返していた。そしてこの方法で6週間という短期間で英語を習得した彼は、その方法をフランス語やオランダ語の習得にも用いて、最終的には18カ国語を話せるに至ったという。しかもどの言語の習得にも6週間以上はかからなかったらしい。そこまでぶっ飛んだ内容だと若干疑わしいような気もしてしまうが、シュリーマンと交流を持った人が世界中に存在したことからも信ぴょう性は高いように思う。

こういったエピソードを見ると、シュリーマンがやってきたことを「努力」のひと言で片付けるのが失礼なようにも思えてしまう。ただ彼にとっては言語を学ぶことも、商人として多忙な日々を過ごすことも、そもそも努力とは思っていなかったのだろう。全ては子どもの頃の夢を実現するための準備であり、彼にとっては単に必要だからやっていることであり、使命を果たすための通過点ぐらいにしか思っていなかったのかもしれない。シュリーマンの最も類まれな才能は、子どもの頃の夢を少しも疑わず、それに向って生涯かけて進むことができたその純粋さなのだろう。

おわりに

そういった尋常ならざる努力だけではなく、シュリーマンの場合はそれをことごとく結果に結びつけていることも忘れてはならない。いくら多数の言語を習得しようともそれが目的に結びつかないなら虚しいが、シュリーマンは幼少期からの夢である「トロイアの発見」を現実のものとした。そういった計画性や行動力もシュリーマンという人物を見る上では欠かせないように思う。

本書は第一章がシュリーマンの生い立ちから商人として莫大な富を築き上げるまでの内容となっており、それ以降はトロイア発見などの遺跡発掘が中心となっている。個人的には上記の勉強法を始め、シュリーマンの悲恋や商人時代の話が書かれている一章がおもしろかった。200ページに満たない本なのでサクッと読めます。

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