文房具好き必読の書「文房具 56話」が究極に癒やされる

文房具、身近な小道具でありながら、これほど使う者の心をときめかせる物はない。

今回紹介する本の裏表紙に書いてある一文ですが、本当にその通りだと言わざるを得ない。ご多分に漏れず、僕も文房具は見るのも集めるのも、もちろん使うことも大好きだからです。

そんな文房具好きの人に是非読んで欲しいのが、今回紹介する『文房具 56話』という本です。

筆者の串田孫一氏が愛用している文房具に関するエピソードがまとめられています。

いつのまにか姿を消す「消ゴム」

どの話も文房具に対する作者の愛情が感じられますし、ユニークさに富んだ内容が多いです。

その中でも僕が思わず笑ってしまったのは「消ゴム」というエピソード。「あるある」と言ってしまうような話が満載。

学校へ通う子どもたちの、筆入を開けてみて、そこに消ゴムが入っていたとすると、これが、素直に、つまり消ゴムらしく使われている場合は少ないのではないかと思う。

顔が描いてあったりするのはまだいいとして、穴があけられ、鉛筆の芯で何度も注射された痕が、あばたのように出来ていたり、餘程口惜しいことでもあったのか、喰いちぎったような歯の痕がついているものもある。

僕もそうですが、これって誰でもやった経験があるんじゃないでしょうか。授業中に退屈すると、なんとなく消しゴムを鉛筆で突き刺してみたり、角をハサミで切って友達に投げつけたり。そういったことを思い出します。

筆箱の中にある多くの文房具の中から、消ゴムだけがそんな可哀想な立場になるのも、今考えると不思議なもんですね。あのちょうどいい感じの柔らかさが、子供特有のいたずら心をくすぐるのかもしれません。授業中という制限された時間での遊び道具にはピッタリなんでしょうね。

またこちらも面白い。

一体消ゴムはだんだんに小さくなって行くものだが、どこまで使えるのだろうか。これをもし実験するとなると、むつかしい。使おうと思えば、まだ十分に使えるのに、なんとなく姿を消してしまう。球形になって来ると、床へ落とした時に不規則に跳ね廻って、どこかへ隠れ、しまいにいなくなってしまう。消ゴムの老衰して行った本当の最後を見届けるのは、実に困難なことである。

僕も常々「消しゴムを最後まで使い切る人は、果たして存在するのだろうか」と思っていたのですが、それを大正初期生まれの筆者と共感できたことが、嬉しいやら驚いたやら。

天寿をまっとうした消しゴムっているんですかね。大体いつも半分ぐらいを使いきったあたりに姿を消してしまうような。死ぬ間際の猫が姿をくらますのと同じで、主人に哀れな姿を見せまいとしているのかもしれません。それって都市伝説らしいですが。

文房具がもっと好きになる一冊

ひとつひとつのエピソードに筆者の文房具に対する造詣の深さと、愛情を垣間見ることができます。空き瓶を筆立てにして、それに日光が差し込んだ様子を「緑の光」という文房具として紹介するあたり、筆者のセンスを感じます。締めくくりとなる最後のエピソードも実に見事。

読んだ後には、ほっこりとさせてくれます。机のそばにおいて、たびたび読み返したくなるような一冊です。

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