手塚治虫の漫画が面白いのは哲学があるから『ぼくのマンガ人生』

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久しぶりに読んだ『ブラックジャック』がとてつもなく面白くて、そこで考えた。

「どうして手塚治虫の漫画はここまで心に響くのだろうか」

その疑問を解決する一助にするべく、思わず買ってしまった以下の本。

手塚治虫先生が、自身の生い立ちやマンガに対する哲学を余すことなく語ってくれています。どうやら講演の記録のようですね。手塚治虫という人間がなぜ偉大なのか、どうして彼の漫画は時を超えても人を惹きつけているのか。それをまるっと知ることができる一冊です。

手塚治虫はやっぱり凄い。

手塚治虫の漫画の信念

数々の名作を世に送り出してきた手塚治虫先生ですが、彼の作品の奥にあるテーマは「生命の尊厳」でした。

前にも述べましたが、「生命の尊厳」はぼくの信念です。ですから、ぼくの作品の中にはこのテーマがくりかえし出てきます。

手塚先生は戦争を経験しています。その中で多くの人の死を見て、一度は自分自身も「もうだめだ」と諦めかけるようなこともあったそうです。それだけに、戦争が終わった時は「生きていることの喜び」を心から感じることができたと話しています。

『ブラックジャック』では医療という舞台を通して、人間の生命がどうあるべきなのかを考えさせる場面が多く存在します。主人公のブラックジャック自身も、医者が人間の命を左右することに常に悩んでいます。これは手塚先生自身が医者であるということも強く関係しているのでしょう。

『火の鳥』はさらにスケールが広がって、生命を人間だけではなく、生き物全体の視点から見ています。輪廻転生などの概念がたびたび登場するので、手塚先生の信念を全面的に押している作品と言えるかもしれません。

手塚治虫の漫画が愛される理由のひとつに、このテーマの一貫性があります。生涯の作品数は600以上にもなるというおかしな数になっていますが、そのどれを見ても奥底にあるテーマは共通して「生命の尊厳」です。だから読者は、どの漫画でも手塚治虫らしさを見出すことができるし、だから面白いし、安心するのだと思うのです。

それにしても、戦争を経験した人が「生命の尊厳」をテーマにした漫画を書いたら、そりゃあ面白いに決まってるなと。さらに医者としての経験もあるわけですし、漫画を書く土台がすでに常人離れしていると思い知らされますね。あれだけの奥深い漫画を生み出すのも、納得できます。

忘れてはいけないユーモア

本書の中には手塚先生の妹さんが兄を語る部分もあるのですが、それがさすが兄妹というか、兄の作品を非常によく理解していて面白い。

妹さんいわく、兄の作品の軸に「生命の尊厳」があるのは同意として、もうひとつの軸に「ユーモラスなおふざけ」があると語っています。

このユーモラスなおふざけも、兄のマンガの持つもう一つの軸だと私は思っています。

確かに思い返してみると、手塚治虫漫画には常におふざけ要素が存在している。例えそれが『アドルフに告ぐ』などのシリアステイストの漫画でも、必ず一箇所はユーモア要素をぶっこんできます。そしてそれが漫画に独特の味を出しているのは事実でしょう。

正直なところ、子供の頃に読んだ時は「おむかえでごんす(※スパイダーというキャラらしい)」や「ひょうたんつぎ」などが出ていると「なんじゃこりゃ?」と意味不明に思っていました。ただ大人になってからはむしろ「これがないと!」と思ってしまってますね。

「ユーモアを挟む」って簡単なようで結構難しいと思うんです。僕の場合は文章ですが、やはり笑いに繋がる要素を入れるっていうのは勇気がいるし、下手をすると話の腰を折るので難易度が高い。それを手塚先生はシリアス漫画だろうと平然とやってしまっているので、豪胆というか匠の技というか。やはり漫画にかけての感覚は、異常に研ぎ澄まされていた人なんだろうなと思います。

手塚治虫の漫画が面白い理由

手塚先生と親しかったアップリカ創業者・葛西健蔵氏の以下の言葉が印象に残っています。

「手塚治虫に哲学がなかったら、死んでからもマンガがこんなに読まれへん」

これが答えなのだと思います。手塚先生の漫画の奥にある「生命の尊厳」という哲学は、非常にシンプルでありながら、人間にとっての永遠のテーマです。それだけの深いテーマを扱っているのだから、長い間漫画が多くの人に読まれるのはむしろ当然なのかもしれません。

もちろんそれだけではなく、読む人によって様々なテーマを見いだせることも魅力でしょう。妹さんのように「ユーモラスな部分がいいんだ」という人もいるでしょうし、その人の境遇や感性によって色々な読み方ができる懐の広さが手塚漫画の素晴らしさだと思っています。

また本書を読むと、手塚先生は周囲の人に非常に恵まれていたこともわかります。家族や学校の先生、友人などの存在も、手塚漫画の魅力の土台になっているのは確かです。

本書は前半は漫画やアニメを通じた自伝のようになっていますが、後半は読者への力強いメッセージとなっています。想像以上に自分の栄養にできる部分の多い一冊です。

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