人生、宇宙、すべての答え/『銀河ヒッチハイク・ガイド』

あまりSF小説は読まないので偉そうなことは言えないが、こういった小説の面白さはその巧みに構成された世界観にあると思う。ロボットが家庭にいたり宇宙船がワープしたりと、現実では「あり得ないこと」を小説内では「当たり前のこと」として扱っている。そしてそれを特に違和感もなく読ませてくれる。SF小説を読んでいると、不自然なものを自然なものに昇華しきっている小説家の知識と技巧に感動してしまう。フィクションをフィクションとして受け取れるって素晴らしい。

『銀河ヒッチハイク・ガイド』は、おバカSF小説である。主人公が住んでいる地球はいきなり宇宙人にぶっ壊され、そして死にそうになったり助かったりしながら、気がつけば宇宙の真理に近づいていたりする。そんな軽妙な展開でありながら作中で起こる出来事には哲学的な問いかけも含まれており、深く考えさせられる要素も持っている。ざっくり言えばそんな小説。

あらすじと雑感と

「工事予定の銀河パイパスの通り道にあるから」という理由で地球は消滅させられてしまう。幸か不幸か主人公アーサーは地球に潜伏していた宇宙人フォードと友人だったため、最後の地球人として生き残ることとなった。二人は宇宙船をヒッチハイクするかのごとく転々とし、ついには幻の惑星マグラシアに到達する。そこでアーサーは地球に関する重大な計画を知る。

まず本書で目につくのは随所に散りばめられたブリティッシュ・ジョークである。1ページ目から「たまには人に親切にしようよ楽しいよ、と言ったばかりにひとりの男が木に釘付けにされてから二千年近く経ったその日」といきなりブラックさがキレッキレだ。そんな神をも恐れない軽快なジョークが作品の大きな特徴となっているのは間違いないだろう。

また『銀河ヒッチハイクガイド』は基本的にアーサーとフォードに起きる出来事が骨子となって展開されていくわけだが、その合間に関係があるのかないのかわからないエピソードが唐突に挟まれたりもする。例えばどこぞの銀河の大統領が宇宙船を強奪した話がいきなり始まったり、「銀河ヒッチハイクガイド(ここでは作中に登場する方を指す)」についての逸話が語られたりする。面白いのは一見すると関係なさそうなそれらのエピソードが物語が進むうちに次第に意味を持つことに気付くことだ。読者は自らが読む物語をとっ散らかされているようで、実は着実にストーリーの深奥へと進んでいる。それを体感したときにはある種の快感に近いものを感じることができるはずだ。

「人生、宇宙、すべての答え」とは何なのか

そもそもこの本を読んだのはインターネット上で見た以下の話に興味を持ったからだった。興味を持った人は実際に試してもらいたい。

日本語版のGoogleでも「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」、「生命、宇宙、そして万物についての答え」、「生命、宇宙、その他もろもろの回答」、「生命、宇宙、そのすべてに対する答え」、「生命、宇宙、すべての答え」などと入力すると「42」とかえってくる。

生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え – Wikipedia

『銀河ヒッチハイクガイド』にはディープ・ソートというコンピュータが「人生、宇宙、すべての答え (上記の引用を見てもわかるように訳者によって微妙にニュアンスは異なる)」という問いに対して「42」という回答を出すシーンが存在する。つまりGoogleがこれをオマージュしているわけだ。検索を利用してこんな洒落たことをしていることに少なからず驚いたし、それと同時に原作にも興味を持ったのが自分が本書を知ったきっかけだった。

この「42」という数字を巡って読者の間ではさまざまな憶測を読んだらしいが、著者自らが後に語ったようにこの数字には何の意味も無いらしい。強いて言うなら何もなさを強調するために「42」を選んだらしいが、やはりどこにでも複雑に考えたがる人はいるらしく、結果的にはあまり意味を成さなかったようだ。

ただ数字に意味は無いとしても、この回答にまつわる一連のエピソードはこの作品の最も面白い部分だと思う。地球が巨大なコンピュータとして作られたというスケールの大きさはワクワクする話だし、また最も賢い動物がねずみというのも面白い。実験動物として扱われているねずみだが、本書のように彼らが人間を遥かに超越した知的生命体で、実験結果を意図的に操作していたらどうなるのだろうか。思考実験みたいな話になってしまったが、こういった哲学チックなことを考える余地があるのも本書の魅力のひとつだと感じる。

このあたりの逸話は河出文庫版の訳者解説に詳しいので読むことをおすすめしたい。この本を訳するだけあって軽妙さが光っているし、また作中に登場する名詞や数字についての裏話も書かれているので楽しむことができる。


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